ウィーン音大教授とピアノの先生に聞いてみた⑩としコラボVol.2-10

こちらの動画を文字にしたものです。

M:マティアス・トラクセル教授
C:カルメン先生
T:としさん

10代になって人前で演奏するのが苦痛に感じられるようになってきました。原因は色々あると思うのですが、なんだか自分の演奏を聴いてもらうのはすごくエゴイスティックなことなのではないかという気持ちが頭から離れないのです。この問題には解決策がありますか。

M:エゴとは私たちの中にある感情の1つだということをこの質問者は理解していないように思います。

聴衆に与えるものとはエゴからくるものではなく、わたしの精神からくるものです

この精神は音楽を理解し解釈して演奏することにとても必要なもので、この2つを取り違えて考えてはなりません。

自分の精神、核を持っていないと音楽は理解できないし演奏も出来ません。作曲家たちもこれがないと作曲できなかったでしょう。

作曲家は大事な作品をエゴから作ったわけではありません。

もちろん人間はある程度のエゴは持っているということは理解しなければいけないでしょう。ですが、我々が舞台で披露するのは、エゴではありません。

エゴとは全く違うものを持って、私達は舞台に上がるのです。

C:この質問はこういった生徒と何ができるのかという質問なんじゃないかしら。

M:この場合は理解と認識の問題だと私は思います。彼に舞台に出ることがどういうことなのかを説明すること。

私が思うに、舞台上で「今日の演奏の出来はどうでもいい、全員がお金を払って自分が稼げさえすればいいのだ」、これはもちろんエゴですが、全く違うものです。

私が作品を学ぶ時、私は作品を学び、良い演奏のために努力し、そして聴衆に何かを受け取ってもらうに努めます。

そしてもちろんこれを押し付けたりはしません。

聴衆は演奏を聴いて、そこから何かを受け取りたいという思いでコンサートへ自ら足を運びます。基本として大事なことですが、音楽を渡しているのです。

私が思うにこれは哲学的な問題で、彼はこの事をしっかり理解していないように思います。

C:このような突然「弾きたくない」と言い出した生徒とはより多く対話の時間を持つことがとても重要です。

こういった生徒とは弾くこととは別に会話をしないといけません。

M:この場合は生徒との対話が何よりも重要だと思います。

今話したような内容をしっかり説明して考えをクリアにしてあげれば、たいていの場合この問題は解決するでしょう。

これはオーストリアでは聞かない質問です。

最初この質問を見た時は驚きました。これは興味深いものですし、不快な質問では全くありません。なぜならば彼は少しばかり自分を疑って見ています。

彼は自分自身をしっかり見ているということです。ただ正しい認識が少し欠けているように、私には感じられます。

感想

としコラボVol.2を通して、お2人ともありがたい事にどの質問にも真摯に答えてくださっていますが、この質問はその中でも1番本気で考えて質問者のために答えてくださっています。

この質問に関しては事前にも「こんな質問がきてるんですけど」とお伝えして話しました。

聞く人が聞けばわかるのですが、他の質問でのドイツ語が僕が聞き取りやすいように話してくださっているのに対して、この質問の時だけは訛りも入っていて、インタビュー中もマティアス先生の本気をより感じました。

そして「こんな考えではダメだ」ではなく、最後に「彼は自分自身をしっかり見ている」と肯定していますね。素晴らしいです。

読んで頂きましてありがとうございました。
としさん@津久井俊彦