ウィーン音大教授とピアノの先生に聞いてみた③としコラボVol.2-3

こちらの動画を文字にしたものです。

感想は一番下にありますので、目次から飛んでください♪

M:マティアス・トラクセル教授
C:カルメン先生
T:としさん

指の練習本(ハノンetc) についてどうお考えですか。使うとしたらどういう効果的な使い方がありますか。

C:わたしはハノンは使いません。なんというかこどもには退屈だと思います。わたしが思うにふつうの曲の中でも、弾き方や手のかたちは学ぶことができます。

そのためにふさわしい作品が本当にたくさんあるので、ハノンである必要はありません。

M:わたしも同じ考えです。

音階(スケール)を練習したい時に必ずしもハノンである必要はありません。古典派のソナタにも様々な種類の音階、指の訓練にふさわしい部分が多く含まれています。

そしてこれらの演奏技術と音楽的なアイデアは常に結びつけられて考えられていることが大切です。この方が機械的な練習よりも簡単に問題はクリアできると思います。

もちろんハノンなどの練習曲を時折使うこともできます。ただそれによるリスクももちろん考えるべきでしょう。そうした練習になじむ事で、演奏が機械的なレベルにとどまる危険性もあります。

C:わたしの生徒に例えばハノンをやらせたら飽きてすぐにやめてしまいます。

T:僕がこどもの頃も楽しくはなかったです。

いい音を出せる様にする為の手、手首、腕等の使い方、特に初心者に具体的にどういう指導をされますか。

M:それは技術的(身体的)な側面からの質問なので、今ここではっきりとは言えません。ですが先ほどの質問と似ていて、まずは音楽的なアイディアを持たないといけません。

その曲の中でこの音符を自分はどう弾きたいのか、どんな音を想像しているのか、作曲家が何をイメージしていたのか。そしてこれらを表現するためにどの動きが必要になるのか考えます。

例えばリストの作品を演奏するときには、バッハのプレリュードなどを弾く時とは違う腕の使い方をするでしょう。もちろんそれはどういった音を自分が出したいのかによって変わってくるものなので、身体の使い方の事だけを考えてはいけないのです。

「まず身体的の使い方から」という考えは音楽へは繋がっていきません。

理論的には身体の使い方から考えることも出来なくはないですが、先ほど話したように機械的なレベルに留まるリスクはあります。

C:私は小さい生徒には実際の動きを見せて、場合によっては触ってもらいます。そうすると子どもは真似をしますよね。ここで何よりも大切なのは、“音を聴かせること“です。その動きの時にどんな音がしているのか。それがわかったら、曲の中でも使えるようになります。

身体の動きと音の響きは常に繋がっていることが大切です。動きが変わった時に実際に音がどう変わったのか、硬くなった、柔らかくなったでもいいでしょう。それを比べられることがとても重要です。

重要なのは耳で聴くということです。

T:”音”について質問があります。その音はピアノの音ですか?それとも頭の中で鳴っている音ですか?

M:そうですね、その2つは全くの別物です。

どの楽器にもそれぞれの音がありますし、美しい音のピアノもあればそうでない時もあるでしょう。ですが、楽器から実際に出る音と、頭の中のイメージの音は全く違うものです。

まず出したい音をイメージして、そのために必要な動きをする。そして楽器から音が鳴ります。それから楽器の問題です。

美しい音のイメージによって美しい音が鳴るかもしれませんが、良くない楽器だと当然それは難しくなります。楽器が素晴らしいものであれば、また違うものになるでしょう

要するに楽器とイメージ、そして身体の動きのコンビネーションなのです。その中でより重要なのが、自身の描く音の形(イメージ)であると私は考えます。

楽器を変えることは出来ません。それは良い悪いも含めて状況によって変わります。

ただ、自分の中にあるもの、自分から作り出すものこそが本質だと私は考えます。これと楽器の音は全く別のものなので、区別して考える必要はあると思います。

C:小さい子どもには初めから音についていつもイメージさせることが大切です。

「この音は何だと思う?」

これが出来ればピアノで試すことが出来ます。

家庭で練習している楽器が電子ピアノのお子さんの指導ではどんなことに気をつけたらよいでしょうか。

C:私の生徒にももちろんいます。そういったご家庭に対して私はいつも本物のピアノで練習することの大切さを伝えています。もちろんコンサートグランドとは言いません、アップライトでいいのです。

さきほど音のイメージの話をしましたが、電子ピアノでそれは出来ないですし、そもそも音を自分のイメージで作ることができません。

簡単な音量の変化をつけることも電子ピアノで練習している子どもたちにとっては難しいのです。私としては本物のピアノを持つことが必要だと言わざるを得ません。

M:私の生徒が電子ピアノでたくさん練習してきた時にはすぐにわかります。家には電子ピアノしかなく、時々大学でグランドピアノで練習している生徒もいますこの場合も音の作り方やタッチが全然違うのですぐに気づきます。

ペダルもうまくいきません。絶対に薦められません。

T:やむを得ない場合のみの方法でしょうか。

M:そう思います。

感想

3本目もとても勉強になる内容で、考え方そのものが日本でよく聞くものとは全く違うものでした。

確かにオーストリアの調律先でハノンを見たことは一度もなかったので、こういった理由だったのかと納得しました。良し悪しは別として、ハノンをやらせたらオーストリアの子ども達はやめてしまうというのは教育の部分からもくるものだと感じています。僕は楽しくないながらもハノンをやって確かに上達した時はあったので、目的と考え方次第なのかなと個人的には思います。

2つ目の質問は、実は僕もたまに頂く質問で「ピアノの構造面から見て良い音で出すにはどこをどう弾いたらいいですか?」と似ています。

このご質問を頂いた時には
”良い音”についてですが、これは場面によって変わると思います。まず表現したい音楽があって、そのために必要な音があって目の前には楽器があるので、この条件の中でその音を実現するための1つのヒントが構造の知識になるため、どこをどう弾いたらいいのかを具体的に説明することが難しいです。

という風に大体お答えしていたのですが、まさに同じような回答でした。

ここでは”音”にフォーカスしていましたが、大切なのは”音楽”なんだという事でした。

電子ピアノについてはなかなか難しい質問で、この後も色々質問したのですが具体的な気をつけるポイント・練習方法などをうまく引き出すことは出来ませんでした。ウィーンはもちろんオーストリアでは電子ピアノ自体は以前よりかなり普及しています。ですが、今回の動画の全体的な内容から見ると、確かに電子ピアノはそもそも別の楽器だと考えている印象を受けました。

としコラボVol.2まだまだ続きます!

読んで頂きましてありがとうございました♪
としさん@津久井俊彦