こちらの動画を文字にしたものです。
M:マティアス・トラクセル教授
C:カルメン先生
T:としさん
本番に向けて演奏の高め方の指導方法。本番が控えている生徒がいたとしてどのように指導をされますか
M:本番の日に合わせて早めに仕上がっていることが大切です。遅くてもコンサートの2週間前でしょうか。それ以降は丸1日弾いたりしないように、練習量を少なくしていきます。
なぜなら身体の状態を当日に向けてリラックスさせなければいけないからです。これはスポーツ選手と似ていて、彼らも試合前はたくさん練習しませんよね。舞台で演奏するための準備には頭を使わないといけません。
そして本番ギリギリまで修正し続けることをしないことです。
もちろん突然2週間後に何かを弾かなくてはいけないと言われた時は別です。その場合はおそらく本番前に1~2日休息に時間がとれればいいでしょう。ただこういった場合は大抵ベストの演奏とはいかないでしょう。
また先生が最後の最後まで修正し続けることは私は良いこととは思いません。どこかのタイミングで生徒自身に任せるようにするべきだと思います。これは心理的な面で大切ですね。
そしてリハーサルの機会をなるべく多く作ってあげることです。これによって何がうまくいかないか、生徒自身が気付くことができます
可能な限り多くのリハーサルをすることは最も大切なことです。
このリハーサルを聴く人は1人でも十分です。誰が聴いているかは関係ありません。建物の管理人さんでもOKです。繰り返しますが、最も大切なことは出来る限り何度も人前でリハーサルをすることです。
ただし、最初に話したようにコンサート直前までというわけではありません。直前は避けるように。例えばコンサート前日にリハーサルで100回ミスタッチをしたとしましょう。もう直すことは出来ません。
C:小さい生徒たちと私がよくやることは、2~3週間前のレッスンで演奏のビデオ撮影をします。これも本番に似ています。
生徒はとても緊張しますね。
これはとても良いことで、どこが問題で何が起きて何を直せるかを知ることが出来ます。
それでも本番まではまだ直す時間がありますね。カメラとかスマホで、もちろん十分だと思います。
舞台袖での気持ちのコントロールの仕方についてお話を伺いたいです
C:子どもは緊張しませんね。ただ「弾くぞ」という事以外、なにも考えないのです。でも大きくなるにつれて、色々考えるようになるので緊張するようになりますね。
M:文化の違いもあるかもしれません。オーストリアと日本では10歳くらいの子どもたちは少し違うと想像しています。ですので舞台袖の雰囲気も違いがあるのではないかと思います。
わたしは基本的には緊張すること自体は必要なことだとも思っています。そもそも緊張がないと無感動な演奏になってしまいます。それはいけません。
それはもちろん、準備の出来によって変わります。
自分でベストな準備が出来ていて、それでも何かは起こり得ると覚悟する、そう思うことが出来れば自信を持って舞台へ上がっていけます。教師は生徒にこの自信を持たせ、落ち着かせる必要があります。
もちろん大切なのはリハーサルをたくさんすること。それはとても効果的です。リハーサルを繰り返してある領域に達することが出来れば、良い意味で緊張に慣れることが出来ます。少なくとも身体が硬くなることはないでしょう。
準備が足りない時や、舞台での演奏経験が少ない場合には身体が硬くなってしまいます。
C:私は生徒のために発表会前に緊張を和らげるための呼吸の練習を一緒にしています。生徒がすごく緊張していたら、一緒に違う部屋に行って本人にとって本当に簡単な何か別の曲を弾かせて自信を持たせます。
T:緊張自体は特にピアニストにとっては必要なものですよね。
M:私の先生だったLeonied Brumbergは人生で一度だけ全く緊張しない本番があったそうです。その時の演奏はとてもひどいものだったと聞きました。
感想
今回は個人的にとても良い質問だったと思います。
レベルの違いはあるにしろ、発表会やコンクール、コンサートなどの本番の前って追い込むイメージがあったのですが全く逆でした。確かに日本では「本番が近いから調律はそれが終わってから」と言われることが多かったのですが、オーストリアでは「本番前は時間があるから調律お願い」って言われることが多かったように思います。
本番ギリギリまで修正し続けることはしないというのも、今まであまり聞いたことのない話でしたね。
またコンサートレベルでの当日リハーサルでも、その日に弾く曲を全く弾かない人もいたりして、人によって色々違うんだなぁと思うことも多かったです。
舞台袖での話は、当日というよりは準備が大事という事でした。そして緊張すること自体は大切なことという事で、この動画が少しでも誰かの役に立ってくれたらとても嬉しいです。
まだまだ続きます!
読んで頂きましてありがとうございました。
としさん@津久井俊彦