こんにちは。2019年10月からウィーンとザルツブルクのちょうど中間地点に住んで調律師として仕事をしています。
オーストリアに来てから「日本のピアノを弾く人たちの役に立てることはないのだろうか」という事をいつも考えていました。
そして辿り着いたのがこのトシブログです。そして2021年は、
実践的な内容での”調律師から見たピアノという楽器の構造について”の発信に力を入れていきます。
これはオーストリアに来てからよく感じることなのですが、子どもたちはもちろん音大生やプロの方のピアノの構造への理解が日本と比べて遥かに高いです。理由を少し調べてみたら音大のカリキュラムにピアノ構造理論がしっかり入っていたり、メーカーや調律師さんがこういった講座を子どもたちにも積極的にやっている事がわかりました。
これは自分たちもやらないわけにはいかないという事で、ウィーンやザルツブルク、プラハなどでの経験を基にブログとYoutube(準備中)で発信していこうと思います。
これらの内容がプロの方趣味の方、また年齢も問わず少しでもピアノを演奏する際の役に立てばとても嬉しいです。
前置きが長くなりましたが、本記事ではピアノを弾く人がピアノという楽器の構造を理解することについて深堀りしていきます。
【ピアノの構造を知る1番の目的】初めて弾くピアノとその環境に1秒でも早く順応する
ピアノの宿命。~楽器を運べない~
他の楽器をされている方がいたらぜひ質問してみてください。
「本番当日は会場に置いてある楽器で演奏してくださいって言われたらどうですか?」
ほぼ間違いなく「ありえない」という返答になると思います。
一部のピアニスト、あるいはお金をたくさん払うという例外を除いてプロアマチュア関係なくピアノを弾く人が必ず背負う宿命です。
趣味の方や子どものコンクールでは一発勝負なのはもちろん非日常への緊張もありますし、プロの方のコンサートでも当日リハーサルの時間のみが与えられて、そこでピアノの弾き心地だけではなく置き場所、音響や照明などたくさんの事に順応していく必要があるのがリアルです。
ピアノに順応する力
これは実はコンクールやコンサートのような舞台上の話だけではなく、普段のレッスンでも起こっているかと思います。あれだけ家で上手く弾けたのに先生のところへ行ったら50%も弾けない。慣れた頃にレッスンが終了なんて事もありますよね。
目の前のピアノに順応する=環境に合わせて自分がやりたい事が出来る状態
この順応する力、ピアノを弾く技術と同じくらい必要な力なのかなと実際の現場で仕事をしていていつも感じます。
「経験を積むしかない」、ここにもう1つのものさしを追加できる。
慣れるのに慣れるには
さて、この宿命に立ち向かうにはたくさんの経験を積んで慣れるしかない
というのが正直な答えかと思います。
・ピアニッシモが抜けやすいピアノだったので気をつけて弾いた
・連打が入りづらくて慣れてきた頃に自分の演奏が終わってしまった
・ペダルがスッカスカでコントロールが難しかった
・音色が全体的にこもっていて音の出し方をリハーサル中ずっと探していた
など、本番やコンクール、さらには普段のレッスンでもこういった経験をされた方はいらっしゃると思います。
こういった経験がたくさん蓄積されていけば「慣れることに慣れる」ようになっていくはずですが、おそらくかなりの”量”が必要になるのではないでしょうか。
この”量”を増やすのは音大生でもない限り現実的ではないですよね。
ここでピアノの構造というものが、この経験の”質”をより高めるための新しいものさしになるのではないかと考えています。
楽器の構造を知ることで経験の質を高める
弱音が抜けやすい→気をつけて弾く
↓
弱音が抜けやすい→アフタータッチが少ない→鍵盤の底の方に注意して弾く
であったり、このアフタータッチが少ない理由が分かればこの経験がより具体的なものになっていきます。アフタータッチが多いピアノでも弱音が出しづらくなりますが、この時の注意点は全く別のものになります。
このようにピアノという楽器を知れば知るほど、弾いた時間や体験に対して得られる情報が増えるのと同時により鮮明なものとして演奏者に蓄積されていきます。
またメーカーごとの特徴が事前にわかっていれば、ある程度のイメージを持った状態で弾けるため、これもまた濃い経験として残していけるかと思います。
構造なんか勉強したって意味がないという方へ
「あの量の音符を追いながらさらに鍵盤の先のハンマーなどの動きをイメージするのは不可能だ」
と言われた事があります。120%仰る通りです。
ですがこのピアノの構造を理解すること。この目的は中身の構造を思い浮かべながら弾けるようになることではありません。
この真の目的は普段から目の前にあるピアノを無意識に思うがままにコントロールできるようになることです。ピアノと一体化すると言っていいと思います。
ピアノは最も身近にある楽器にも関わらず、音が鳴る仕組みの部分は見えません。そして何よりもあんなに大きいのに身体の触れている部分が指先とつま先のみという、演奏者との距離はある意味かなり遠い楽器です。
この目の前にあるピアノで他人より魅力的に演奏するためにも、楽器を理解することは役に立つと個人的に考えています。
最初は意識→だんだん無意識に→一瞬で順応→音楽だけに集中
この構造を理解して弾くということ、おそらく最初は簡単ではありません。理由はただ1つ、見えないからです。
火加減の全く見えないガスコンロがあったとしたら慣れるまで時間がかかりますよね。あるいはたまたま泊まったビジネスホテルのシャワーなども最初は加減が難しいです。ピアノの場合はそれがさらに音という見えないものでしか判断できないためより難しいと思います。
この部分をなるべく解決していけるように今後Youtubeで発信していこうと思っています。
知っておくと役に立つピアノの知識(発信予定です)
各メーカーごとの違い
当日弾くピアノの音色やタッチ、ペダルの特徴などの知識です。
鍵盤から先の音が出るまでの仕組み
当日弾くピアノの状態にすぐに慣れて、音響や音楽に早く集中できるようになるための知識です。
音が鳴る仕組み
ピアノの位置や屋根の開け閉め、リハーサルと本番の聴こえ方の違いなどをイメージするための知識です。
その他
グランドピアノとアップライトピアノの物理的な仕組みの違い
自分で出来るコンクール対策としてのピアノの音色の変え方
なども発信していこうと思います。
さいごに
この2021年、動画での発信という事で新しいことにチャレンジしていきます。
僕もまだまだ経験不足な部分も多々ありますので、勉強しながらより役に立つ情報を発信していけるよう努力していきます。
よろしくお願いいたします。
津久井俊彦