こんにちは!としさん@津久井俊彦です!
横浜を拠点にピアノ調律師やってます♪
未知の体験
とある日のエピソード。
ウィーンのピアニスト、イェルク・デームスをコンサートの後にホテルまで送った時の話です。
彼がよく滞在していたホテルの部屋にはいつも電子ピアノが置いてありました。全然高くない、おそらく10万円しないくらい。ヘッドフォンは2つ使えるタイプでした。
その日もいつものようにお気に入りのファミレスで食事をした後に部屋まで送ると、「明日の朝は早いのか?」と聞かれてちょうど翌日休みだったのでそう伝えると、「今からコンサートだ」と言ってヘッドフォンを渡されました。
後に控えるコンサートのプログラムをどうしても通して弾きたかったらしく、まさかの電子ピアノ(しかもお互いにヘッドフォン)でのリサイタルが始まりました。
自分は調律師なので、良い音楽のためには良い音が必要だし、そのためには良いピアノ、そして良い調律が絶対に必要!と思っていましたが、その日この考えは完全に打ち砕かれました。
電子ピアノでなんでこんなに音色が変わるんだろうかと、これそもそも本当に電子ピアノなのか?
状態の良くないピアノでよくこんな演奏できるなぁという時は多々ありますが、電子ピアノでこの世界観は完全に未知の体験でした。
電子ピアノリサイタルが終わって聞きました。
「何が起きたんですか?」
そしたらウィーンの巨匠は一言。
「よく書かれているだろう。これが天才たちが我々に残したものだ。」
曲の持つ力
以前クラシックのコンサートにおける重要なことについて彼が言っていたことがあります。
それは、
最も重要なのは作品、つまり何を弾くか。
ということ。
次にどこで弾くか。誰が弾くか・・・と続いていきます。ちなみに彼はジョークが大好きだったので、「ピアノの調律は朝のコーヒーに入れる砂糖の量の次くらいとても大切なんだよ」なんて言っていました。
この作曲家が命を賭けて作り上げた曲、そして同じく当時の音楽家たちによって命を賭けて演奏されてきた”曲の持つ力”というものがあって、それは楽器が変わったくらいで失われるものではないとも。
もちろん電子ピアノで作曲家の表現したかったことが学べるとは言いません。おそらく現代のピアノだけではなく、彼のように作曲家が生きていた時代のピアノを弾くことも必要になってくるんだとも思います。
インターネットなんか当然無い時代から現代まで受け継がれてきた楽譜たちが持つ力を実際に体験できた貴重な時間でした。
としさん@津久井俊彦